こんにちは! パドルです
今日は最近読んだ小説「AX」を紹介します
伊坂幸太郎の作品です
伊坂幸太郎と言えば、伏線回収の名手として知られていますよね
私は今まで「アヒルと鴨のコインロッカー」や「ゴールデンスランバー」を読んだことがあります
特に「アヒルと鴨のコインロッカー」のどんでん返しは衝撃的だったので、こちらも機会があれば紹介したいと思います
今回紹介する「AX」は同じ著者の「グラスホッパー」や「マリアビートル」に連なるシリーズで、これらの作品では殺し屋が活躍します
シリーズものと言っても、各作品は独立したストーリーになっていますので、「グラスホッパー」と「マリアビートル」を読んでいなくても楽しめます
実際私はそれら二つを読んでいませんでした
「AX」は恐妻家の殺し屋が主人公(通称「兜」)で、彼は家庭では常に妻の機嫌を伺いながら、裏では凄腕の殺し屋として活躍しています
日常パートと仕事パートの対比がとても面白いです
また、日常パートで交わされる家族との会話がコントのようなやりとりで、読んでいてほほえましくなります
こんな人におすすめ
「AX」はこんな人におすすめです
- メリハリのある作品が好き
- 「あ、そういうことだったのか!」という驚きを味わいたい
- そこまで重くない特品が好き
メリハリのある作品が好き
一つ目の「メリハリのある作品が好き」というポイントですが、「AX」は日常パートと兜の仕事ぶりパートのギャップがとても魅力的です
日常パートは家族との会話を中心に展開されます
兜は常に妻の気分を害さないように気にしながら妻と会話しており、息子の克巳にはそれを見透かされて同情されています
ここだけ切り取るとただのホームコメディです
家庭では妻に頭が上がらない夫とそれを見守る息子の、クスっと笑えるやり取りが交わされています
反対に、兜の仕事ぶりパートでは敵との緊迫したやり取りが描かれます
二つのパートの緩急が絶妙です
「あ、そういうことだったのか!」という驚きを味わいたい
「AX」は伊坂幸太郎作品らしく、そこかしこに伏線がばらまかれています
そして物語の終盤に向けて次々に回収されていきます
意外な人物が終盤に登場したり、序盤から中盤にかけて何気なく描かれていたシーンが終盤で意味を持ったり
特に最終章で息子の克巳が兜の秘密を知るシーンのしかけは見事で、物語的にも感動的でした
そこまで重くない作品が好き
「AX」は殺し屋が主人公の作品で、命のやり取りも描かれますが、全体的にそれほど重くありません
それは主人公の兜の性格やセリフ回しのおかげだと思います
兜は職業柄もあるのか死を全く恐れておらず、敵と対峙するときも恐怖感を覚えません
その兜が一番怖いのが、妻です
妻に怒られることを何よりも恐れており、それは命のやり取りをしているときにも表れています
死の危険があることよりも帰りが遅くなって妻に叱られることを恐れています
そんな兜が主人公なので、全体的に重くない雰囲気で物語を楽しむことができます
しかし、それでも終盤には衝撃的な展開が待ち受けています…
あらすじ
簡単に「AX」のあらすじを紹介します
主人公は手練れの殺し屋である通称「兜」
彼は今まで幾度となく依頼をこなし、死をまったく恐れていません
しかし、そんな彼にも恐れるものがあります
それは、妻です
彼は妻には全く頭が上がらず、妻の機嫌を取ることを最重要に考えています
息子の克巳はそんな兜をかわいそうに思い、たびたび立場の弱い父に助け船を出しています
兜の表向きの仕事は文房具メーカーの営業社員ということになっており、家族に裏稼業は知られていません
家族から見ればとても気弱な父親です
兜は物語中に様々な人物と出会います
様々の人物と接するうちに、兜は裏稼業を辞める決心をします
兜はいつも仕事を仲介してもらっている「医師」にその決意を伝えるのですが、そのまますんなり辞めさせてはもらえません
医師と話した帰り道に刺客に襲われてしまいます
仕事を辞めるのは一筋縄ではいかないと実感した兜は、医師と決別するための作戦を立てます
果たして、兜は無事足を洗うことができるのでしょうか…
ネタバレあり感想
ここからは、ネタバレありで感想を書いていきます
「AX」未読の方はご注意ください
終盤の展開
「AX」は基本的には重くない描写が続きますが、私が唯一重かったと感じた描写があります
それは、兜の死です
終盤の章でいきなり、兜が亡くなったことが書かれます
それも、かなりあっさりとした言い回しでした
あまりにも唐突な描写に、最初私は
「これは最後の最後で復活するのでは…?」
と思ってしまいました
兜のキャラが個人的に好きなこともあり、死んでほしくなかったという想いもありましたが
兜が亡くなってからは克巳が物語の主軸になります
克巳が兜の部屋から鍵を見つけ、その鍵がどこのものであるか調べます
その過程で兜に仕事をあっせんしていた医師にも出会います
医師こそ兜を死に追いやった元凶ですが、克巳はその事実を知りません
医師は兜に秘密を握られていると考えており、克巳の持つ鍵の部屋にそれが隠されているのではと恐れます
そこで克巳についていき、部屋を開けます
その瞬間、兜の仕掛けが作動し医師を倒すことができたのでした
この瞬間は読者の中でも色々な要素がつながった瞬間でした
物語序盤で出てきたボウガンが仕掛けられていたこと、
兜が部屋の管理人に
「家族には絶対に開けさせるな」
と言っていたこと、
克巳行きつけのクリーニング屋の店主が実は兜と対決したことのある奈野村であったこと…
細かくまかれた伏線が一気に回収される瞬間はとても爽快です
また、兜だけでは倒すことができなかった医師を、克巳の行動がきっかけとなって倒すことができたというのは、感動的でした
兜の死は無駄ではなく、家族を守ることにつながったのです
各章のタイトル
「AX」の各章のタイトルはほぼアルファベット順になっています
AX、BEE、Crayon、EXIT、FINE
です
各章の内容はタイトルに応じたものになっています
例えば、「BEE」では兜が庭に巣を作ったスズメバチと戦う場面が描かれますし、「Crayon」には克巳が小さい頃にクレヨンで描いた絵が登場します
「Crayon」だけ大文字と小文字の組み合わせである理由は正直よくわかりません
また、この並びを見て一つ気づくことがあります
「D」にあたる章がないのです
私はこのことについて物語中で何かヒントになることがないかと読み進めていましたが、明確なヒントになりそうな描写はありませんでした
なのでここからは私の勝手な想像なのですが、「D」にあたるのは「DEATH」なのではないでしょうか
この物語は、死を迎えた兜が施したしかけが、克巳の行動をきっかけにして作動することで医師を倒します
そのことを踏まえると、自らの死を超えて医師を倒した兜をタイトル構成でも示しているように思えます
「D」をタイトルにつけずに「C」から「E」に飛ばすことで、死を飛び越えて目的を達成した兜が表現されているように私は感じました
これは私の妄想に過ぎませんが、物語の章にまで考察の余地を残してくれている伊坂先生には感謝です
まとめ
今日は小説「AX」を紹介しました
殺し屋が主人公ですが、会話の軽妙さとキャラクターの性格もあり、エンターテイメント小説として楽しむことができます
その軽さが逆に終盤の展開の印象を重くしている可能性もありますが…
手軽に読めて最後は感動できる作品です
もし機会があればご一読ください
今日も最後まで読んでいただいて、ありがとうございました!
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