【物語のテーマと伏線のベストマッチ】小説「流浪の月」感想

小説

こんにちは! パドルです

今日は最近読んだ小説「流浪の月」を紹介します

「流浪の月」は凪良ゆうによる小説で、2020年に本屋大賞1位に輝いています

2022年には映画化もされました

この小説を読んで私が感じたことは

「人は自分が見たいものしか見ていないし、思い込みに気づこうともしない」

「自分が優しさを向けているつもりでも相手のためにならないこともある」

ということでした

自分が普段の生活で、いかに他人や周囲の人たちに勝手なイメージを持っているか考えさせられる作品です

また、自分が本当に思っていることをなかなか周囲の人たちに共有できず悩んでいる方には、とても刺さる物語だと思います

あらすじ

物語の主人公は9歳の少女である更紗(さらさ)

しっかりした父親と自由な母親の元で幸せな暮らしをしていました

母親は本当に自由人で、その影響もあって更紗には周囲の子たちとは違った自由な感性が磨かれます

しかし、父が病気で亡くなってしばらく経つと、母は新しい彼氏のところへ行ってしまい、二度と帰ってきませんでした

更紗は伯母の家に引き取られますが、そこでの暮らしは更紗にとっては最悪でした

伯母宅では普通の暮らしとはこういうものだという規則のようなものがあり、自由な更紗にとってはそれが苦痛でした

また、伯母宅の長男が更紗にすることも、更紗の心に大きな傷を残しています

更紗は学校帰りに友達と公園で遊んでいるのですが、その公園には大学生くらいの男がいつもベンチに座っています

その視線は子供たちにじっと注がれていて、子供たちはその男のことを怪しい人だと噂しています

ある日、公園で友達と遊んだあと、家に帰りたくなかった更紗は再び公園に戻ってきます

ベンチに座りながら本を読んでいると、雨が降ってきました

傘を持っていなかった更紗がそのまま座っていると、例の男が傘を持って近づいてきます

「家に帰らないの?」

と訊かれ、

「帰りたくない」

と更紗は答えます

すると

「うちにくる?」

と誘われ

「うん」

と答えた更紗は男の家に行くことになりました

男の名前は文(ふみ)と言いました

文は母の影響でやたらしっかりした生活をしています

家事はいつも完璧にこなし、料理もレシピ本に出てくるようなものばかりです

しかし、文は更紗にそのしっかりした暮らしを強制はしません

また、更紗にはいつ家に帰ってもいいと言い、更紗に何かすることもありません

更紗は家族で暮らしていたとき以来の幸せを謳歌するのでした

でも、その暮らしも長くは続かず…

2カ月ほど文の家で暮らしていた更紗が動物園に行きたいと言い出します

文は更紗を連れて行ったのですが、更紗が行方不明になったことはテレビで放映されていたため、他の客にすぐバレてしまいます

そのうちの一人が警察に通報した結果、文は逮捕されてしまいます

事件の後、更紗は自分が知っている文のイメージと周囲から思い込んでいる文のイメージとのギャップに苦しみ続けます

自分のせいで文を犯罪者にしてしまったと後悔しながら十五年が経ち、更紗は二十四歳になりました

物語のおすすめポイント

ここからはネタバレなしでこの物語のおすすめポイントをお伝えします

更紗と文の関係性

これは物語の中心となるテーマですが、更紗と文の関係性についてとても深く考えさせられます

二人の関係は世間的には誘拐の加害者と被害者です

物語の登場人物のほとんどは二人の関係をその前提に立って見ています

周囲の人たちは事件に巻き込まれた人というイメージを持って更紗に優しさを向けますが、更紗にはその優しさは全く響きません

むしろその優しさを向けられる度に自分は理解されないと感じてしまいます

更紗にとっては、当事者の文以外に理解してくれる人がいません

一方の文も人に話せない悩みを抱えており、それにずっと苦しんでいます

更紗と同じように文も誰にも理解されないという想いを感じていて、更紗の存在を頼りにします

そんな二人の関係性にどんな名前がつけられるのか

それを考えながら読んでいくと、より深く物語の世界に入れると思います

「事実と真実は違う」

これは物語の中に登場するフレーズですが、ストーリーで二人が直面する現実を描くとともに、伏線という形でもそれを表しています

物語の序盤で読者に与えられる「事実」をそのまま受け入れながら読み進めていくと、終盤で示される「真実」にひっくり返されます

しかもその真実がとても心に刺さります

詳しくはネタバレになるので書きませんが、ストーリー展開すら物語のテーマに沿っている作品はなかなかないと思います

ネタバレあり感想

ここからはネタバレありで感想を書いていきます

「流浪の月」未読の方はご注意ください

物語の結末

「流浪の月」の結末は、ハッピーエンドとは言えません

文と更紗は結局二人で暮らすことになりますが、世間は事件のことを定期的に蒸し返します

そのたびに勝手な思い込みによる中傷を受け、住む場所を変えなければなりません

しかし、二人は幸せに暮らしていけそうに思えます

更紗は次に住む場所をのんきに考えられるほどになりましたし、文も更紗と一緒にどこへでも行く覚悟を決めています

安住の地というのは見つけられないかもしれませんが、二人でいられる限りは幸せに生きていけそうです

二人が一緒にいられるような結末で本当に良かったと思います

世間の誰にも理解されなくても、お互いだけが理解し合える、この二人が迎えられる最高の結末です

また、冒頭にも書きましたが、

「人は本当に自分の見たいものしか見ないんだな」

ということも強く感じました

物語全体を通して、二人を本当に理解する人は一人しか現れません

更紗や文それぞれに恋人はできるのですが、結局その人たちも自分の思い込みだけで行動し、二人を傷つけます

テレビや週刊誌の情報だけで二人のことを知った気になる人たちばかりです

現代ではテレビや週刊誌をそのまま信用してしまう人たちは少なくなってきたと思いたいですが、報道も個人の見解の集合体に過ぎません

エンターテイメントとして見るくらいがちょうどいいと思います

自分が関わりたいと思った人のことはうわさ程度の情報で判断しないように肝に銘じなければなりません

また、自分が見えている事実が真実とも限りませんので、そのことも心に留めておこうと思います

見事な伏線回収

私はこの物語に伏線回収があると思っていなかったので余計に驚いたのですが、見事な伏線回収でした

文は世間が思っていたような人ではないのは更紗によって理解されていましたが、文が抱えている悩みは物語の終盤まで更紗も理解できていませんでした

更紗も小学生当時の周囲の子供たちのうわさ話や事件の報道の一部を真実だと思い込んでいたのです

「事実と真実は違う」

という物語のテーマになっているフレーズが、物語の展開でも表現されていることにとても驚きましたし、感心しました

この真実が明らかになった後に文の今までの発言を振り返ってみると、様々な発言が違った意味に聞こえてきます

個人的には、世間に思われたイメージよりも文が抱えていた真実のほうが重く感じ、とてもいたたまれない気持ちになりました

まとめ

今日は小説「流浪の月」を紹介しました

「自分が見ている事実は真実とは違うかもしれない」

「自分が大切にしたい人と接するときはより深くその人を理解できるようにしよう」

と思える作品でした

多くの人に読んでいただきたいですが、個人的にどんな人におすすめしたいかもまとめます

  • 周囲の人に理解されていないと感じている方
  • 悩みを人に言えない方
  • 驚きの展開が好きな方

これらにあてはまる方にはとても共感できて面白く読める作品だと思います

機会があればぜひ読んでみてください!

今日も最後まで読んでいただいて、ありがとうございました!

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