【「読者が犯人」という不可能に挑戦】小説「最後のトリック」

小説

こんにちは!

今日は最近読んだ小説「最後のトリック」を紹介します

深水黎一郎による作品で、デビュー作でもあります

「最後のトリック」というのは、ミステリー界で誰も成しえなかった最後のトリックで、

読者を犯人にするトリック

という意味です

つまり、小説を読み終わったときに

「ああ、自分がこの人を殺したんだ…」

とすべての読者が思う必要があります

果たしてそんなトリックは可能なのでしょうか?

この小説は、不完全ながらもそのトリックを実現しています

さすがに読者の誰もが自分のことを犯人だとは思わないと思いますが、このトリックで自分は犯人だと納得できる読者もいるはずです

こんな人におすすめ

「最後のトリック」はこんな人におすすめです

  • ミステリーにSF要素が入っていても楽しめる
  • 一見関係なさそうな話が一つに収束する展開が好き
  • 叙述トリックが好き

あらすじ

簡単にあらすじを紹介します

主人公は小説家の「私」

「私」は次回作を新聞で連載することにしていましたが、物語のアイデアがまとまらず悩んでいました

そんなとき、香坂誠一なる人物から手紙が届きます

その手紙は

「あなたに私の小説のアイデアをお売りしたい」

というものでした

まさにアイデアに悩んでいた「私」ですが、手紙の中ではアイデアの詳細は語られませんでした

ただ

「読者が犯人になるミステリーのトリックを思いついた」

ということが書かれていました

読者が犯人となるトリックなど、未だかつて誰も成立させたことがありません

読者は年齢層も様々、小説を読むタイミングも様々で、すべての人間が読了後に自分が殺したと思わせるような展開にすることは不可能です

半信半疑だった「私」は友人や妻にも手紙を見せてみましたが、二人とも質の悪い悪戯だと判断しました

その手紙に対して特にリアクションをしなかったAですが、後日また手紙が届きます

中身には、

「あなたは悪戯だと思ったかもしれませんが、違います」

「このアイデアの金額は2億円で、そこから1円たりとも下げる気はありません」

「私の人となりがわかったほうが良いと思うので、手紙とは別に覚書を同封します」

といった主旨のことが書かれていて、覚書には香坂誠一の小学生時代の思い出のようなものがつらつらと記されていました

「私」はだんだんと香坂誠一とそのアイデアのことが気になってきたのですが、その後意外な方面から彼のことを聞かされます

香坂誠一が行方不明になったらしく、警察が行方を追っているとのことです

しかも、香坂誠一はとある事件の重要参考人となっていました

果たして、彼はどんな事件に巻き込まれたのでしょうか?

そして彼の言っていた「読者が犯人」となるトリックの真意とは…

ネタバレあり感想

ここからはネタバレありで感想を書いていきます

小説未読の方はご注意ください

「読者が犯人」トリックの真相

この小説、たしかに「読者が犯人」というトリックを成立させています

しかし、そのトリックに対して賛否両論はあると思います

なぜなら、

超能力の存在を前提としたトリックだからです

香坂誠一は自分の心のうちについて書いた文章を他人に読まれると身体的ダメージを受けるという体質です

「最後のトリック」は新聞に連載されている小説を読者が読んでいるという設定になっています

小説の中で、香坂誠一が「読者が犯人」というトリックをAに売りつけようとする過程がそのまま掲載されています

また、自分の人となりを知ってもらうために幼い頃の思い出をただ書いた覚書もそのまま掲載されています

香坂誠一が書いた文章が新聞の読者に触れ、次第に香坂誠一の身体を蝕んでいき、やがて死に至る

読者が文章を読まなかったら香坂誠一は死ぬことはなかった

つまり、読者が犯人

というロジックです

たしかに、物語の中の「読者」という存在はこのロジックで犯人になり得ると思います

彼らが新聞に連載されている小説を読んだことが原因で香坂誠一が亡くなったことに間違いはありません

また、小説の中の世界は、まだ科学的に立証はされていないものの、超能力はたしかに存在しているという世界観です

この世界であれば「最後のトリック」のような手法で「読者が犯人」という構図を成立させることができると思います

要約すると、この小説は現実世界の読者を犯人にするためのトリックを成立させたのではなく、超能力の存在を前提とした世界における読者を犯人にすることに成功した、ということになります

私が「不完全ながらも」と枕詞を置いたのは、これが理由です

この小説のロジックで現実世界の読者に自分が犯人だと思わせることは難しいと思います

おそらく作者も、これで完全に「読者が犯人」というトリックを成立させたとは思っていないでしょう

果たして、今後現実世界の我々に

「自分が犯人だ…」

と思わせる小説は登場するのでしょうか…?

そのためには、現実世界が物語世界に影響を及ぼしたと読者が納得できるような構成を創り出す必要があります

また、読者が小説を読む時期はバラバラなので、いくら時間が経っていても成立するようなトリックでないといけません

とても難しそうです…

まとめ

今日は小説「最後のトリック」を紹介しました

「読者が犯人」という不可能に思えるトリックを、限定的な条件ながらも成立させている作品です

読者によってはご都合主義に思う人もいると思いますが、「読者が犯人」というトリックの一つの回答を示した物語だと思います

機会があれば読んでみてください

今日も最後まで読んでいただいて、ありがとうございました!

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