こんにちは! パドルです
今日は最近読んだ小説「レモンと殺人鬼」を紹介します
作者はくわがきあゆで、2022年の「このミステリーがすごい」文庫グランプリを受賞しています
文庫本のあおり部分の「二転三転四転五転する展開に驚き!」という言葉に惹かれて買いました
読んでみた感想は確かにそのとおりで、早いテンポで予想を裏切られ続ける展開でした
こんな人におすすめ
「レモンと殺人鬼」はこんな人におすすめです
- 展開の早い作品が好き
- 狂気に満ちた人物が登場する作品が好き
- 予想を裏切られるストーリーが好き
あらすじ
舞台は現代の日本です
主人公は大学で事務の仕事をしている小林美桜
父、母、美桜、妹の妃奈の4人家族でしたが、父は美桜が子供のころに殺害されてしまいました
父が亡くなった直後に母も行方不明になってしまい、美桜と妃奈はそれぞれ別の親戚の家に引き取られました
現在は二人とも一人暮らしです
物語は美桜が妃奈の遺品整理をする場面から始まります
そう、妃奈も亡くなってしまったのです
それも誰かに殺されるというかたちで…
妃奈は保険外交員として働いており、以前付き合っていた彼は事故死していました
彼は妃奈を保険受取人とした生命保険に加入していたため、妃奈には三千万円の保険金が支払われています
この事実に目を付けたマスコミやその他有象無象が、もしかしたら妃奈が交際相手を殺したのでは、と妃奈のバッシングを始めます
妃奈は事件の被害者にもかかわらずです
そして新たに妃奈の元交際相手が、自分も妃奈に保険に入らされそうになったと発言したことで、世間の妃奈に対する風当たりは一層強くなります
妃奈の姉である美桜の元にも週刊誌の記者が押し寄せるようになり、美桜の日常は脅かされます
美桜としては妃奈が保険金殺人をしたとは思えないため、妃奈の潔白を証明するために動き始めます
協力者である渚とともに様々な人物から話を訊くことで、真実が段々と見えてきます
また、生前の妃奈から父を殺した佐神翔という男が出所したという話を聞いていた美桜の身にも危険が迫ってきます
果たして、妃奈の事件の真相とは?
そして妃奈は誰に殺されてしまったのでしょうか?
ネタバレあり感想
ここからはネタバレありで感想を書いていきます
「レモンと殺人鬼」未読の方はご注意ください
多重に仕掛けられた伏線とミスリード
この作品は五転する展開が売りであるとあおりにも書かれているとおり、次からつぎへと読者の思い込みを覆す場面が登場します
私が一番驚いたのは、
「佐神翔は妃奈によって殺されていた」
という事実です
佐神翔は美桜の父親を殺害した人物で、美桜は彼に狙われているのではないかと恐れていました
実際美桜は物語中に何度か襲われるのですが、すべて佐神翔ではない人物によるものでした
読者は
「こいつは佐神翔じゃなかったのか!? だとしたら誰だ…?」
という混乱を二、三回は体験することになります
また、佐神翔のものと思われる回想シーンが度々挿入されるのですが、これにも騙されてしまいます
様々な点で佐神翔の状況と類似しています
海辺にある家に住む家族に目をつけたこと、人を斬ってみたいという衝動があることなど素直に読み進めていけばこの回想が別人物のことであると疑うことはありません
しかし回想は佐神の父親によるものでした
言われてみれば回想中に美桜は登場しませんでしたし、登場人物も固有名詞ではなく「少女」、「父親」のような一般名詞で表されていました
見事に思い込みを誘導されていました
もう一つの回想
また、私がこの回想を佐神翔のものであるのにはもう一つ理由があります
実は作中には美桜の少女時代のものであると思われる回想が出てくるのですが、それも美桜ではなく妃奈のものでした
私は、こちらの回想は美桜のものだと思わせようと書いているけど、実は別の人物のものなのでは、となんとなく思っていました
予想は当たったのですが、こちらの回想を疑うあまり、もう一つの回想にもミスリードが仕掛けられていることに気づきませんでした
この多重に仕掛けられたミスリードが、私たちに混乱と驚きの体験を提供してくれます
数少ないまともな人物たち
「レモンと殺人鬼」にはほとんどまともな人物が登場しません
主人公である美桜は、最初はまともに思えます
妹の妃奈の潔白を信じて真実を明らかにしようとしているのだと読者は思い込まされるのですが、妃奈が無実であるとわかると、美桜は笑いが止まらなくなります
なぜなら美桜の動機は
「妹が自分と同じく虐げられる側の人間だったと確認したかったから」
というものだからです
美桜は幼い頃父親を殺されて母親も蒸発してしまうという、とてつもなく不幸な過去を持っています
それでも自分を保ってこられたのは、妹の存在があったからです
しかし、これは美しい姉妹愛というものではありません
自分と同じような不幸な存在がいると確認して安心するという、とても後ろ向きな理由です
この小説全体を通して個人的にまともだなと思えた人物は、桐宮と妃奈です
桐宮は美桜が勤めている大学に通う大学院生で、美桜をボランティア活動に誘います
実は彼は美桜の過去を知っており、純粋に美桜を救いたいという気持ちから美桜と関わりを持とうとします
途中で彼が佐神翔なのではと疑われる場面があるのですが、最終的にはただの良い人でした
もう一人は妹の妃奈です
妃奈は保険金殺人をしたのではと疑われますが、実際はどん底に落ちた人を何とか生きながらえさせるために生命保険に加入させていたのでした
生命保険では加入後の二年間は自殺しても保険金がおりません
それを逆手にとって、妃奈は今にも自殺しそうな人を加入させて、
「とりあえずあと二年は生きて頑張ってよ」
と励ましていたのでした
しかも、加入者が事故死してしまったときに受け取った保険金は、全額寄付しています
物語終盤で妃奈が佐神翔を殺したことが明かされますが、自分の父親を殺した相手を殺したいと思う気持ちは十分に理解できます
この二人以外は狂気に満ちた人物が多く、現実ではなかなかお目にかかれない人物の心情に触れられるのも、この小説の魅力だと思います
まとめ
今日は小説「レモンと殺人鬼」を紹介しました
定期的に読者の予想を裏切ってくれる作品なので、読んでいて驚きが絶えません
どんでん返しのある作品が好きな方におすすめできる作品です
機会があれば読んでみてください
今日も最後まで読んでいただいて、ありがとうございました!
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