こんにちは! パドルです
今日は最近読んだ小説「medium 霊媒探偵城塚翡翠」を紹介します
相沢沙呼による作品で、ミステリー賞5冠を達成しています
最近ドラマ化もされていましたね
主人公で推理小説作家である香月史郎(こうげつしろう)が、ヒロインで霊媒師である城塚翡翠(じょうづかひすい)とともに数々の殺人事件を解決していく物語です
全四話構成でそれぞれの事件は独立していますが、最後の事件である連続死体遺棄事件に向かってそれぞれの話でも伏線が張られていく形になっています
私はミステリーに霊媒などの超常現象要素が絡んでくると、基本的には読む気が失せます
超常現象がありになるとなんでもありになってしまうからです
それが原因で霊媒師が登場するこの作品も敬遠して今まで読んでいなかったのですが、実際に読んでみると私の懸念を吹き飛ばす面白さでした
この作品のあおりには
「全てが、伏線」
と書かれているのですが、まさにその言葉がぴったりです
四話構成であること、各話の終わり方、間に挟まれる真犯人の描写、登場人物のプロフィール、ところどころ挟まれるむずがゆくなるような描写など、本当に全てが伏線でした
こんな人におすすめ
「medium 霊媒探偵城塚翡翠」はこんな人におすすめです
- 超常現象を信じていない
- 都合の良い展開に違和感を覚える
- 完璧に筋の通った物語が好き
あらすじ
簡単に「medium 霊媒探偵城塚翡翠」のあらすじを紹介します
主人公は推理小説作家の香月史郎
彼は頭脳明晰で、警察の捜査に何度か協力して事件を解決に導いてきました
そんな彼の元に大学時代の後輩である倉持結花(くらもちゆいか)から連絡があります
なんでも、先日占い師に見てもらったときに女性の霊が憑いていると言われ、そのころから女性の悪夢を見るようになってしまったというのです
その霊は泣き女と呼ばれる霊障のようで、結花の夢の中でもその女は泣いていました
結花は新たに霊媒師に見てもらうときに、香月に付いてきてほしいと頼みます
心霊現象など信じていない香月に客観視してもらい、結花が騙されそうになったら指摘してほしいということでした
そして、香月は霊媒師である城塚翡翠と出会うことになります
翡翠は結花と香月の職業を一瞬で当てたり、離れた場所から結花に触れる感覚を生じさせたりと、その力は本物のようでした
後日、結花が霊に悩まされている原因を探るため、香月と翡翠は結花の家に行くことになりました
しかし、二人が結花と言葉を交わすことは二度とありませんでした
結花は何者かに殺害されてしまったのです
そして現場には水滴が残されていました…
これは泣き女の仕業なのでしょうか…?
ネタバレあり感想
ここからは、ネタバレありで感想を書いていきます
「medium 霊媒探偵城塚翡翠」未読の方はご注意ください
香月史郎の真実
「medium 霊媒探偵城塚翡翠」は全てが伏線になっています
物語内部で語られるセリフや描写もそうなのですが、物語の構成にも仕掛けが施されています
真実が明らかになったときに私がまず感心したのは、この本が短編集のような構成になっていたことについてです
物語のクライマックスで明かされる真実の中で、
「香月史郎こそが物語のラスボスである連続殺人鬼だった」
という事実は多くの読者が驚かせると思います
実際私も
「まさか…?」
と思いましたし、その事実が示されたときには興奮してテンションが上がりました
逆に
「どうしてここまで気づかなかったんだろう…?」
とも思いました
主人公が犯人である展開はそこまで珍しいものではありませんし、そういう仕掛けがあったとしても途中で気づくこともしばしばです
しかし、「medium 霊媒探偵城塚翡翠」においては全く気づきませんでした
なぜ気づかなかったのか考えてみると、この物語の構成の巧さが見えてきました
「medium 霊媒探偵城塚翡翠」は全四話構成です
香月と翡翠の出会いから始まり、最後の決着までが描かれています
各話の間には、「インタールード」としてラスボスである連続殺人鬼の描写が挟まれます
その人物は「鶴岡文樹」と、名前がしっかりと示されています
ここでまず別人だと思わせる仕掛けが働いています
また、短編集という構造になっていることも、香月史郎と連続殺人鬼を別人だと思わせる効果を増幅させています
短編集であれば、主要人物以外の各話の登場人物は他の話にそうそう絡んでこないだろうという先入観が働きます
その先入観が、
「この合間に描かれている連続殺人鬼は、最終話に初めて出てくるんだろう」
という思い込みにつながります
香月史郎と連続殺人鬼が同一人物だと分かったときに引っかかることがあるとすれば、
「なぜ名前がちがうのか?」
ということですが、これは香月史郎が推理作家であることを考えると素直に納得いきます
単純に本名とペンネームの差です
それを踏まえて各登場人物が香月のことをどう呼んでいたか考えてみると、誰も
「史郎」
とは呼んでいませんでした
ペンネームの下の名前だけ取って呼ぶことはまずないですよね
加えて、香月と親しい刑事も香月のことを
「作家先生」
と呼んでいて、名前を呼ぶ描写はありませんでした
香月史郎が推理作家だという設定が、このようなよく考えれば違和感を覚えそうなことも自然なことに思わせています
本当に素晴らしく練られた構成と設定だと思います
城塚翡翠の真実
翡翠も最初は霊媒師で天然で純粋な女性という描かれ方をされています
しかし、彼女には全く霊感がありませんし、すべて計算して純粋な女性を演じていました
霊媒だと思われていたのは彼女の観察力と推理力の賜物です
人間は自分が理解できないスピードで物事の本質を見抜かれると、それが何か不思議な力によって生ずるものだと思ってしまいます
香月も頭脳明晰で私からすれば十分すごい推理力を持っていると思えるのですが、翡翠は次元が違います
香月のIQが130だとしたら、翡翠のIQは200だった、といった感じです
今まで翡翠は現場に入った瞬間にだいたいの犯人像を特定していたのですが、私としては
「翡翠には本当に霊媒の力があるんだなー」
と思っていました
それがすべて推理だと言われても
「??」
と疑問符が浮かぶばかりです
最終章で翡翠が順を追って推理を説明してくれて、初めて納得できたと同時に
「この推理をものの数秒で…!?」
と驚愕しました
また、嬉しくもなりました
観察力と推理力を極限まで高めれば、自分もこのような推理が可能になるかもしれないと可能性を感じたからです
超常的な力が必要なのであれば自分にはこの超人的な推理は不可能なので諦めるしかないのですが、努力すればもしかしたら…と思えました
また、天然で純粋な女性を演じていたのにも目的がありました
その目的とは、
「香月史郎の正体を暴くこと」
です
わざとか弱くて隙のある女性を演じることで香月を篭絡し、香月が連続殺人鬼であるかを確かめようとしていました
そのためにあざとい行動を繰り返していたのです
私は物語に出てくる恋愛描写があまり得意ではありません
そういう描写があるとどうしても
「いやいや、急にこんな距離は縮まらないだろ…」
と冷めてしまいます
幼馴染であるとか、昔から関係性があるという設定があるなら別なのですが、今回の香月と翡翠のようなスピード感で距離が縮まるのはあり得ないと考えてしまいます
なのでそういう描写が出てくるたびにわずかばかりの嫌悪感が芽生えていたのですが、最終章に至ってすべて納得しました
翡翠がわざとやっていたのなら納得です
また、翡翠の天然で純粋な性格も現実感がないと感じていたのですが、翡翠が男受けする性格を演じていたということがわかって、こちらも納得しました
第三者から見れば女性のあざとさは不快に映るかもしれませんが、やられている本人は嬉しいだけで気づかないと思います
そういうものですよね
翡翠の純粋さが演技だとわかって、逆に私は翡翠に好感が持てました
嫌味なところもある普通の人間なんだな、と思えたからです
香月を追い詰めるシーンはさすがにやりすぎていて引きましたが…
まとめ
今日は小説「medium 霊媒探偵城塚翡翠」を紹介しました
「全てが、伏線」のあおりのとおり、何もかもを裏切ってくれる作品です
とても読みやすい文章で書かれていて、あっという間に読み終えてしまえると思います
機会があれば読んでみてください
今日も最後まで読んでいただいて、ありがとうございました!
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