こんにちは! パドルです
今日は最近読んだ小説「殺戮にいたる病」を紹介します
女性を狙った猟奇殺人を巡るストーリーが、犯人、息子の行動を不審に思う女性、元警察官の三人の視点から展開されます
この作品も伏線回収ものの名作として知られています
読了後の率直な感想は
「え…? どういうこと…?」
でした
物語最後の数行ですべてが明かされるのですが、その真実は一度読んだだけではすんなり入ってきませんでした
その場で本を置いて今までの描写を頭の中で思い出し、やっと腑に落ちました
こんな人におすすめ
「殺戮にいたる病」はこんな人におすすめです
- どんでん返しや伏線回収ものが好き
- 物語のオチを見破ってしまうことがある
- ある程度のグロ描写に耐性がある
二つ目のポイントですが、私は伏線回収ものの物語が好きで、そういうものに触れ過ぎているせいかごくたまにオチが分かってしまうことがあります
しかし、「殺戮にいたる病」は最後までわかりませんでした
それどころか、真実が明かされた後も頭がパニック状態でした
三つ目のポイントは、凄惨な描写がいたるところにあるので、ある程度の耐性が必要だと思います
あらすじ
「殺戮にいたる病」のストーリーは、三人の登場人物の視点で進んでいきます
一人目は、稔
彼は一連の猟奇殺人の犯人です
生きている女性を愛することができず、犯行を繰り返しています
二人目は、雅子
息子が事件の犯人ではないかと疑っている女性です
あるとき息子の部屋を掃除していたところ、血が入ったビニール袋を見つけ、息子が事件に関与していることを疑い始めます
その疑いはやがて確信になり…
三人目は、樋口
元警官で、猟奇殺人の被害者のうちの一人と親しい関係にありました
彼は被害者の妹とともに犯人を見つけ出そうとします
この物語はエピローグが最初に語られるという特殊な始まり方をします
そのエピローグでは稔が逮捕され、雅子は泣き崩れ、樋口はその様子を見つめている、という場面が描かれます
いかにしてこの場面に至ったのか気になりますが、その後第1章が始まり、当時の三人の状況が説明され、稔の最初の犯行に及びます
その後は時系列に沿って物語が進んでいきます
魅力紹介
ここからは「殺戮にいたる病」の魅力をネタバレなしで紹介します
最終ページの衝撃
この物語は最終ページですべてがひっくり返ります
そして、その真実を受け入れきれずに読者の混乱がピークに達した瞬間にストーリーが終わります
警戒してても騙される、見事なミスリードです
私がここまで言ってもおそらく大半の人は騙されると思います
逆に最終ページまでは少し表現が過激な犯罪小説ものとして話が進みます
違和感を覚える描写も特にありませんでした
私も読み進めながら、
「今のところ普通に物語が進んでいるけど、このあとどんな風にどんでん返しがあるんだろう…?」
と常に思っていました
それを最後の数行で見事にひっくり返します
物語の真実を頭の中で整理して受け入れるまでに少し時間がかかりましたが、それを踏まえてストーリーを振り返ってみると、
「あそこの場面はそういうことだったのか…!」
と改めて感心します
様々な形の愛
「殺戮にいたる病」では、様々な形の愛が描かれます
一番印象に残るのは稔が抱えている愛です
稔は生きている女性を愛することができず、それが理由で犯行を繰り返します
また、遺体の一部を持ち帰り、それが腐るまで愛し続けます
なんだか「ジョジョの奇妙な冒険」に登場する吉良吉影のようです
彼も女性の手のみが愛の対象でした
それ以外にも雅子が抱えている息子に対する愛があります
息子のことが心配なあまり、息子の部屋に入ってゴミ箱の中まで物色してしまいます
ちなみに息子は大学生です
この愛がゆえに息子の犯行を疑い始めるのですが…
また、樋口と関わる女性も一般的ではない愛を抱えています
とある女性は父親と同じくらいの年齢の男性を愛していて、もう一人の女性は姉が愛した男性を好きになってしまう…
「殺戮にいたる病」で描かれる愛の形はどれも普通ではありませんが、物語を読んでいるうちに
「そもそも普通の愛ってなんだ?」
と考えさせられます
ネタバレあり感想
ここからは「殺戮にいたる病」の感想をネタバレありで書いていきます
小説未読の方はご注意ください
この小説は最後の1ページですべてがひっくり返りますので、必ず最後まで読んでから次の文章をお読みください
最後の数行
最後の数行で明かされた真実に、最初私はついていけませんでした
頭の中がパニック状態です
真実を知る前の私は、
「稔は雅子の息子で、大学生」
だと思っていました
しかし、真実は
「稔は雅子の夫で、大学助教授」
だったのです
稔の年齢は、私がイメージしていた年齢よりも20歳ほど上でした
物語の構成や表現が絶妙すぎて、すっかり稔が大学生だと思い込まされていました
そして、真実がわかると物語中の描写により説得力が生まれました
私は小説を読みながら、
「どうして被害者たちは稔についていくんだろう?」
と思っていました
あくまでもフィクションであること、稔の誘い方が上手いこと、稔の笑顔が女性を安心させることから、
「そういうものか」
となんとなく納得していました
しかし、稔が実際は40代であることを考えると、彼女たちが稔に誘われてまんざらでもなかったことがより納得できる気がします
また、大学生にしては稔が年上に見られている描写も多く、そこも伏線だったんだなと後になって思い返されます
被害者の一人は稔のことをおじさんだと言っていましたし、作中のマスコミや犯罪の専門家たちが想定する犯人像も基本的には20代後半以降でした
私が気づいていない伏線もいたるところに張られているはずです
雅子について
私は物語を読み進めながら、
「雅子はどのように物語に関わっていくんだろう?」
とずっと思っていました
正直物語を成立させるだけであれば稔と樋口の視点だけで充分です
稔が犯人側で、樋口が犯人を追う側なので、二つの視点を描けば緊迫感のある物語が描けます
それでは雅子が一体何のために存在しているかというと、私は
「読者を騙すため」
だと思います
物語の序盤で雅子が息子を疑っている描写があり、次に稔が犯行に及ぶ描写が続くことで、
「雅子の息子が稔なんだな」
とほとんどの読者がミスリードされるはずです
私もその一人でした
そして物語が進むうちに雅子が息子への疑いを確信に変え、読者も
「雅子の息子である稔が犯人」
であることを確信していきます
つまり、この物語は雅子の思い込みが読者にも植えつけられることで成立しています
犯人と犯人を追う立場に加えてもう一つの視点を加えることで、見事に読者のミスリードを導いています
まとめ
今日は小説「殺戮にいたる病」を紹介しました
今まで読んできた伏線回収もの作品の中で、一番終わり方が衝撃だった作品かもしれません
少し描写が過激ですが、そのあたりが大丈夫であれば必ず楽しめる作品だと思います
また、この作品は1992年に初版が刊行されたため、現代にそぐわない描写も数か所あります
しかし、それが原因で物語の仕掛けが色褪せることはありません
機会があればぜひ読んでみてください!
今日も最後まで読んでいただいて、ありがとうございました!
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