【奇蹟の証明に挑む探偵】小説「その可能性はすでに考えた」紹介

小説

こんにちは!

今日は最近読んだ小説「その可能性はすでに考えた」を紹介します

井上真偽による作品です

とある事情から奇蹟の存在にこだわる探偵の上苙丞(うえおろじょう)が、事件で起きた事象を奇蹟であることを証明しようとする物語です

奇蹟であることを証明するためには、物理的に考え得る全ての可能性を否定する必要があります

いわゆる「悪魔の証明」です

上苙丞はあらゆる人物から提示される可能性を、事件の状況や証拠をもとに論理的に否定していきます

提示される可能性はあくまで可能性で構わないので、物理的に考えられて事件の状況に矛盾しないのであれば、どんな想定でも許されます

かなり分が悪い勝負です

しかし、あらゆる無茶苦茶な論理を提示されても、上苙丞は簡潔にその可能性を否定していきます

もちろんすでに説明された事件の状況と矛盾しません

その手腕が見事で、とても読み応えがあります

こんな人におすすめ

「その可能性はすでに考えた」はこんな人におすすめです

  • 無理難題に挑む物語が好き
  • 論理展開がしっかりしている作品が好き
  • 個性的なキャラクターが好き

あらすじ

簡単にあらすじを紹介します

探偵である上苙丞は、とある事情から奇蹟の存在を証明しようとしています

そんな上苙はフーリンという女性から多額の借金をしており、フーリンは今日も借金の話をしに探偵事務所を訪れました

二人が話をしていると、とある女性が事務所を訪れます

彼女の名前は渡良瀬利世(わたらせりぜ)

上苙にとある事件の真相を探ってほしいと依頼します

「もしかしたら自分が人を殺したのかもしれない…」

と言うのです

その事件は、15年前に発生した宗教団体の集団自殺に関連するものでした

当時の事件でただ一人生き残った彼女には、奇妙な記憶が残っていました

彼女には仲良くしていた少年がいて、集団自殺の現場から彼女を連れだしてくれたのも彼です

しかし、彼女が目を覚ましたときには彼は首が切断された状態で絶命していました

凶器として考えられるのは家畜処理用のギロチンなのですが、少年の遺体がある場所とはかなり離れています

ギロチンで首と胴体を切断した後に彼女が運んだ可能性はありません

彼女は当時幼く、人間の死体を運べるほどの力はありません

また、彼女には奇妙な記憶が残っていました

少年が彼女を抱えて運んでくれたというのです

しかも、彼女が少年の首を抱いた状態で

つまり、首無しの胴体が彼女を運んだことになります

彼女の話と当時の状況を検証した上苙は、後日分厚い報告書を渡すとともに彼女にこう言います

「あなたの事件は、奇蹟によるものです」

その後上苙は、あらゆる人物から提示される可能性を論理的に否定していきます

どんな可能性を提示されても

「その可能性はすでに考えた」

と前置きをしながら…

ネタバレあり感想

ここからはネタバレありで感想を書いていきます

小説未読の方はご注意ください

奇蹟の証明

今回の事件で起きたことが

奇蹟であったのか、そうでなかったのかは明らかになりません

途中「幕間」という章が挟まれ、利世の記憶の中の出来事が描かれるのですが、その中では利世は少年の首を抱きかかえ、その利世を少年が抱えて歩いている、という記憶になっています

しかし、最終章で上苙は、奇蹟であることを証明できなかったと残念そうにしています

上苙は事件を現実的かつ論理的に説明できる仮説を思いついてしまったのです

しかもその説は、上苙に対して投げかけられた様々な人物からの仮説よりも現実味がありました

事件が奇蹟だったかどうか判断するのは読者の手に委ねられています

個人的には、上苙が最終的に想いついた現実的な仮説を推したいです

理由は二つありますが、一つ目は私がそもそも奇蹟を信じていない、という理由です

今まで奇蹟に遭遇したことはありませんし、奇蹟にすがりたいとも思いません

あくまで私の考えですが、現状を嘆いて奇蹟を願うよりも、現状を受け入れてそれを打開するために努力するほうが生産的だと思います

それに、努力しているほうが未来に対して希望が持てる気もします

未来に起こるかわからない奇蹟を信じるよりも、過去に自分が努力してきた軌跡を信じるのが私好みです

もう一つの理由は、上苙が言ったセリフにあります

上苙は仮説を思いついたときに、

「これは奇蹟の存在を少女に信じさせようとした少年の演出だった」

と言いました

少年は集団自殺の現場で怪我を負ってしまい、利世とともに逃げ出すことは不可能になってしまいました

宗教団体の教義は

「人が死んでも魂は不滅で、いずれ転生する」

というものです

これを利世が真に受けてしまい、少年が亡くなってしまったら、利世も後を追うのではと少年は危惧しました

そこで利世に奇蹟を見せて、生きる希望を持ってもらおうとしたのです

「少年が少女に奇蹟の存在を信じさせようとした」

という話のほうが、単に「奇蹟が起きた」

という話よりも、美しいと私は思います

まとめ

今日は小説「その可能性はすでに考えた」を紹介しました

奇蹟の存在を信じる探偵が、あらゆる可能性を論理的に否定していき、奇蹟を証明しようとする物語です

「奇蹟が絡むのであれば論理展開も突拍子がないのでは?」

と私は少し心配していたのですが、とんでもありません

むしろ大抵の推理小説よりも精緻に論理展開がなされます

ミステリー好きに間違いなくおすすめできる一冊です

機会があれば読んでみてください

今日も最後まで読んでいただいて、ありがとうございました!

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